料理とワインのマリアージュ10の法則
「マリアージュ」とはフランス語で「結婚」という意味。「料理とワイン」という文脈で使う場合は、「料理とワインの美味しい組み合わせ」を意味します(※英語では同じ文脈で一般的には「ペアリング」という表現を使います)。「料理とワインのマリアージュ」にはいくつか簡単な公式がありますので、ここでご紹介します。これらを押さえておくだけで、日々の食卓がいっそう楽しいものになりますよ!
両方が主役と理解する
「マリアージュ」が「結婚」という意味だと前述しましたが、そもそも「結婚」の考え方がフランス(欧米)と日本では異なります。日本では伝統的には「妻は三歩下がって夫についていく」のが美徳とされ、料理についても「料理が主役・酒は引き立て役」「酒は料理を邪魔しなければよい」という考え方があります。しかし、フランスなど欧米では、夫婦関係も料理も、あくまでも関係は対等。お互いがお互いを助け合い、高め合うものです。まず、このことを頭に置いておきましょう。
料理の色と合わせる
「肉料理には赤」「魚料理には白」と覚えていませんか?あながち大間違いではありませんが、実はこれに当てはまらないケースは結構たくさんあります。それよりも、大まかに言うと、肉だろうが魚だろうが、ソースを含む料理全体の色が「淡ければ白」「濃ければ赤」のように合わせた方がより確実です。その意味では、実際の食事では淡い色の料理も濃い色の料理も一緒に並ぶので、その中間の「ロゼ」はどちらにも無難に寄り添う便利なワインなのです。例えば同じ鶏肉でも、調理法によって合うワインは以下のように異なります。
- 鶏肉とクレソンのサラダ ⇒ グリーンがかった白ワイン(シャブリ、ロワールやアルザスなど爽やか系の白)
- 鶏肉のクリーム煮 ⇒ イエローがかった白ワイン(樽熟成したカリフォルニアやチリの白)
- 鶏肉のトマトソース ⇒ ロゼ
- 鶏肉のオイスターソース炒め ⇒ ロゼ、または淡い赤ワイン
- 鶏肉の赤ワイン煮込み ⇒ 濃い赤ワイン
同じ方向で合わせる
これは、同じ系統の香りや味の共通項をキーにして合わせることを意味します。例えば、スパイシーな食べ物にスパイシーなワイン、酸味のあるものに酸味のしっかりしたワイン、ハーブを使った料理にハーブの香りのあるワイン、スイーツには甘口ワイン、などで最も無難で確実な組み合わせです。「スイーツにはコーヒーで口をさっぱりさせたい」なんて考えていませんか?それは「マリアージュ」の発想ではありませんよ!
- アップルタルト ⇒ シードル甘口(リンゴと甘味が共通)
- 子羊のロースト黒胡椒風味 ⇒ 南仏のシラー種(黒胡椒の香りが共通)
- 牛ステーキのマッシュルームソース ⇒ ブルゴーニュの赤(キノコの香りが共通)
- 鶏肉のクリーム煮 ⇒ カリフォルニアのシャルドネ(バターの香り、リッチな風味が共通)
- 鶏肉の塩レモンハーブグリル ⇒ ロワールのソーヴィニヨンブラン(レモンの酸味とハーブの風味が共通)
- フォアグラのポワレ ⇒ 貴腐ワイン(脂の甘味、クリーミーさがワインと共通)
反対方向で合わせる
例えば、塩辛いものに甘口ワイン、辛いものに甘口ワイン、リッチな風味のものに爽やかな酸味の豊かなワイン、など逆の味を持ってくることによって、お互いの味を引き立て合うパターンです。日本でも、アンコに少し塩を加えることで甘さを引きたてるという例がありますが、それに似た効果です。これには、お互いにない要素を補い合うという意味もあります。ただしこのパターンはなかなか難しく、上級者向けと言えます。
- ブルーチーズ ⇒ 貴腐ワインなどの甘口(塩辛い⇔甘い)
- カレー ⇒ ポートワインなどの甘口(辛い⇔甘い ※カレーにチャツネを添える効果)
- 鶏肉のレモンクリーム煮 ⇒ ロワールのソーヴィニヨンブラン(クリーム感⇔爽やかな酸味)
- 鶏肉の唐揚げ ⇒ シャブリ(オイリーな唐揚げを塩とレモンでさっぱり食べる)
重さを合わせる
ここでの「重さ」とはボディの力強さと味の濃さの両方を含みます。例えば、ロワールのミュスカデなどボディの軽いさっぱりとした白ワインは、こってりとした鶏肉のクリーム煮には負けてしまうので、サーモンのカルパッチョのほうが合うでしょう。フルボディのボルドーのカベルネソーヴィニヨンは、ポテトとソーセージのグリルよりは、牛頬肉の赤ワイン煮込みに合わせるべきです。
- 鶏肉のクリーム煮 ⇒ ◎チリのシャルドネ(△ロワールのミュスカデ)
- ポテトとソーセージのグリル ⇒ ◎ボジョレー(△ボルドーの赤)
- フレッシュフルーツ ⇒ ◎アスティ・スプマンテ(△貴腐ワイン)
国・地方を合わせる
古くからワインを作っているヨーロッパの各国では、それぞれの地域に、郷土料理と相性の良いワインが存在します。その組み合わせには、人々の生活の知恵に裏付けされた理由があるもので、迷ったら、たいていの場合それに倣っておけば間違いありません。同様に、日本の風土に根差した日本ワインは、繊細な和食に合うようにできています。地産地消の観点からも、和食には是非日本ワインを!
- シュークルート(豚肉の蒸し煮・発酵キャベツ添え)⇒ アルザスのリースリング等
- ジャンボン・ペルシエ(ハムのゼリー寄せパセリ風味)⇒ ボジョレー
- ニース風サラダ ⇒ プロヴァンスのロゼ
- タルトタタン(焼きりんごのタルト)⇒ ヴーヴレ甘口
- カラスミのパスタ ⇒ ヴェルナッチャ・ディ・オリスターノ(イタリア・サルデーニャ州)
格を合わせる
「格」とははっきり言うと価格のことです。世の中には安くて美味しいワインはたくさんありますが、だからと言って100g5000円のステーキに700円のワインを合わせると、肉の繊細で複雑な旨味に比べ、ワインの粗さが目立ってしまいます。逆にマクドナルドのハンバーガーにボルドーの5大シャトーを合わせるのも釣り合いません。これには気分的なものも含まれるとは思うのですが、そもそも食事に雰囲気や気分は大事な要素なので、釣り合いに気を配るのは大事なポイントだと思います。
レアは軽め、ウェルダンは重め
肉料理とワイン(特に赤)を合わせる場合、「レアに近いほどワインは軽め、ウェルダンに近いほどワインは重め」が原則です。これは、よく火を通した肉のほうが、よく噛んで食べる必要があるため、肉の旨味をより濃く感じるからです。同じ理屈で「薄切りなら軽め、厚切りなら重め」ということも言えます。
- 生ハム ⇒ ロゼワイン、赤の軽め、または白の甘口
- 牛肉のタルタルステーキ ⇒ ブルゴーニュの赤
- 和牛の霜降り肉をレアで(塩・胡椒のみ) ⇒ 高級なブルゴーニュの白(赤ではなく!)
- オージービーフのミディアムウェル(ソース有) ⇒ オーストラリアのシラーズ
何が合うか?ではなくどう合わせるか?
ここまでご紹介してきたように、料理とワインを合わせるいくつかの公式は確かにありますが、「これとこれは絶対に合わない」と決めつけるのは面白くありません。例えば「かまぼこに赤ワインを合わせたい」という方がいた場合どうしますか?私だったら「かまぼこのバターソテー・プルーンソース」という料理を作ります。また「かずのこはワインに合わない」と言われますが、レモン汁とオリーブオイルで、クレソンと和えてサラダ風にすれば、辛口のシェリー(フィノ)やシャンパーニュなどと合います。また、ベーコン・トマト・チーズでグラタン風にすればロゼワインと合うでしょう。コツはちょい足しで接点を作ってあげること。頭は柔らかく、そして少しぐらいの失敗は恐れずに!
- ゆで卵とワインは合わない? ⇒ ベーコンやきのこを加えて全体を中和させる
- 酢(ドレッシング)とワインは合わない? ⇒ レモン汁を足して、ベーコンなどの具材をトッピング
- 刺身はワインと合わない? ⇒ イカ・タコ・白身魚などを、塩のみで、酸味豊かな辛口白ワインと合わせて
困ったときはスパークリング
そうは言っても、どうしても合うワインが見つからない、ということもあるでしょう。そんなときはシャンパーニュを選ぶのが無難です。「瓶内二次発酵」と呼ばれる手の込んだ製法で作られるシャンパーニュは複雑で豊かな香りがあるので、さまざまな料理と接点が見つかります。ワインは魚卵と相性が悪いと言われますが、シャンパーニュには「ヨード香」と呼ばれる、いわゆる「磯の香り」があるので、海つながりで寄り添います。また「ミネラル香」と呼ばれる金属っぽい香りは、タケノコやハスなど根菜類の土の香りとも合います。もし料理の色合いが濃いので白ワインではイマイチ…という場合は、ロゼのシャンパーニュにすればさらに守備範囲が広がります。
料理とワインのマリアージュについては、以下のサイトでより詳しい個々のマリアージュについてご紹介しています。是非覗いてみてください!
【姉妹サイト】「ワインと料理のマリアージュ」