世界3大貴腐ワインとは
貴腐ワインとは、ボトリティス・シネレアと呼ばれる菌(通称:貴腐菌)がブドウに付着することにより、水分が蒸発して糖分が凝縮したブドウから造った天然の甘口ワインです。ここでは「世界三大貴腐ワイン」と呼ばれる貴腐ワインについて、それぞれの特徴をご紹介します。いずれも偉大なワインで、手土産やプレゼントにもおすすめです。
ソーテルヌ(Sauternes)
- 産地:フランス・ボルドー地方
- 品種:セミヨンなど
- 価格帯:¥3,000程度(750ml)~
¥40,000程度(750ml)~
「ソーテルヌ」とはフランスのボルドー地方の一つの地区の名前です。このあたりは、朝は霧で湿度が高いため貴腐菌が繁殖しやすく、逆に午後になると乾燥しブドウの水分が蒸発しやすいという、貴腐ワインの生産に非常に向いた地域です。このソーテルヌ地区で造られた貴腐ワイン全般が、世界三大貴腐ワインの一つです。
とは言え、ソーテルヌにはさまざまなシャトーがあり、一つのシャトーの中でもファーストワインとセカンドワインがあったりするので、個人的には「ソーテルヌ」を「世界三大貴腐ワイン」と呼ぶのは正直広すぎると感じています。かと言って、一部ではソーテルヌの最高峰「シャトー・ディケム」を世界三大貴腐ワインの一つとする説もあるようですが、それでは逆に狭すぎます(ソムリエ協会の教本的にもそれは正しくありません)。
それでも「世界三大貴腐ワイン」の一つが、安いものは3,000円程度から購入できて、その選択肢の幅も広いのは、有り難いことではあるでしょう。
トロッケンベーレンアウスレーゼ(Trockenbeerenauslese)
- 産地:ドイツ
- 品種:リースリングなど
- 価格帯:¥3,000程度(375ml)~
¥3,000程度(375ml)~
ドイツの甘口ワインの等級はワインに含まれる糖度が基準になり、生産される地域やブドウ品種は問いません。甘くないものから順に「カビネット」「シュペートレーゼ」「アウスレーゼ」「ベーレンアウスレーゼ」「アイスワイン」「トロッケンベーレンアウスレーゼ」とあり、 その最も甘い「トロッケンベーレンアウスレーゼ」が世界三大貴腐ワインの一つです。ちなみに甘い上位の2つ「トロッケンベーレンアウスレーゼ」と「ベーレンアウスレーゼ」がいわゆる「貴腐ワイン」になります。
トロッケンベーレンアウスレーゼをはじめ、ドイツの甘口ワインの主なブドウ品種はリースリングで、リースリングの特徴の一つは豊かな酸味です。甘口ワインと言うと「甘くて苦手」という声をよく聞きますが、リースリングの甘口は、甘さの裏にしっかり酸味が感じられるので爽やかさがあり、決して甘ったるくありません。是非ドイツの甘口ワインを飲む際は、その酸味をよく味わってみてください。
また、ドイツの貴腐ワインのもう一つの特徴として、アルコール度数が低いということが挙げられます。ドイツの規定では、甘いワインほどアルコール度数は低くてもよいことになっており、「トロッケンベーレンアウスレーゼ」の規定はなんとわずか「5度以上」。この背景には、ドイツの気候が冷涼でブドウの生育には難しいということがあります。実際には生産者の努力で、トロッケンベーレンアウスレーゼでも10度以上のものが多いですが、それでも他の国の貴腐ワインに比べるとアルコール度数は低いです。
尚、ドイツの貴腐ワインのボトルはほとんどが375mlです。価格的に見ると一見安く思えるのですが、量を考えるとソーテルヌに比べ割高である場合もあるので、購入の際はご注意ください。
トカイ・アスー・エッセンシア(Tokaji Aszú Eszencia)
- 産地:ハンガリー(トカイ・ヘジアリャ地方)
- 品種:フルミントなど
- 価格帯:¥15,000程度(500ml)~
¥30,000程度(500ml)~
「アスー」とは「蜜のような」という意味で、多少なりとも貴腐菌の付いたブドウから造られるワインを指します。選別された貴腐ブドウは「プットニョス」と呼ばれる桶で醸造所に運ばれ、昔はこのプットニョス何杯分の貴腐ブドウが使われたかによって「3プットニョス」や「6プットニョス」などと表記されたのですが、現在では出来上がったワインの糖分量によって3~6プットニョスが分類されます。そして7~8プットニョスに相当する最高糖度の貴腐ブドウを使い、5年以上熟成させたものを「アスー・エッセンシア」と呼び、これが世界三大貴腐ワインの一つになります(※「エッセンス」とは「エッセンス」の意味)。
特筆すべきは、アスー・エッセンシアの残糖(ワインに含まれる糖分量)の最低規定が「180g/L」ということ。これは凄まじい数値で、トロッケンベーレンアウスレーゼの場合は「150g/L」、ソーテルヌには規定はありませんが、最高峰のシャトー・ディケムでも150g/L前後と言われているので、事実上「アスー・エッセンシア」が三大貴腐ワインの中で最も甘いということになります。さらに、アスー・エッセンシアよりも上位の規定の「ナトゥール・エッセンシア」と呼ばれるものもあり、これはなんと「250g/L」ですが、こちらにはなかなかお目にかかることはできません。
ただし、この「アスー・エッセンシア」という名称(カテゴリー)は2010年に廃止され、2009年が最後のヴィンテージとなってしまいました。そうなると「世界三大貴腐ワイン」はどうなるのか?という疑問が出てきます。おそらくは、貴腐ブドウ100%で造られた「トカイ・エッセンシア」がその後釜(?)となるのでしょうが、このあたりははっきりしていません。いずれにしても、今となっては「アスー・エッセンシア」という表記のワインが非常に貴重品であるということは言えるでしょう。