管理人は若かりし頃、ソムリエ試験を受けるためにワインスクールに通ってワインを勉強したことがありますが、スクールで勉強するのはあくまで世界の代表的なワインの一般的な特徴です(もちろんそれも大事なことですが)。しかしそれは世界のワインのほんのごく一部であって、ワインはもっと幅広く奥の深いものです。ワイン好きが集まるホームパーティーやワイン会では、持ち寄ったワインをブラインドテイスティングして楽しむことがあるかと思いますが、そんなときに自分が持参したワインを飲んで皆が「こんなワインがあったのか!」と驚いてくれたときは出題者冥利に尽きます。ここでは、管理人の経験から、ブラインドで出題すると皆が外してくれそうな面白いテーマのワインを選びました。参考になれば幸いです。
ロワール以外のカベルネフラン
ロワールが主産地のカベルネフランは、一般的には青ピーマン、ししとう、グリーンペッパーのような「ヴェジェタル」と呼ばれる青っぽい香りが品種の個性と教わります。しかしながら、このヴェジェタル香は未熟なブドウを収穫していることが原因という説があります(※ロワールはフランスの他地域と比べ比較的冷涼)。確かに温暖な地域のカベルネフランには、まったくヴェジェタル香がなく濃厚な果実味のワインがしばしば見かけられるので、品種の個性について考えさせられる面白いチョイスだと思います。ドゥエマーニのワインメーカー、ルカ・ダットーマは「サッシカイア」や「オルネライア」で腕をふるった人物。ワイナリー名でもある「ドゥエマーニ」の他、よりスタンダード版の「チフラ」も同じ方向性のカベルネフランです。ケンゾーの明日香に至っては、ブラインドでつべこべ言わずに黙ってじっくり味わいたい絶品の高級ワインです。(関連記事)
シャブリ・グラン・クリュ
「シャブリ」というと、すっきり爽やか白ワインの代名詞のような存在。しかしそれは「シャブリ…」と後に何も続かない、”ただの”「シャブリ」。「シャブリ・グラン・クリュ」は「シャブリ」とは似ても似つかぬ味わいです。それもそのはず、ただの「シャブリ」はステンレンスタンク醸造で、MLF(マロラクティック発酵=乳酸菌による発酵)をしないので酸味がシャープ、ハーブの香りやミネラル感もたちますが、「シャブリ・グラン・クリュ」は木樽醸造とMLFが一般的なので酸味はまろやか、ブドウの熟度もずっと高いので、どっしりと力強い味わいです。高級な力強い白ワインを探す場合ブルゴーニュ(コート・ド・ボーヌ)に走りがちなので、その意味でも面白いチョイスだと思います。ちなみに「シャブリ・プルミエ・クリュ」は、この2つのシャブリのまさに中間で、造り手によって「シャブリ」に近いものもあれば、「シャブリ・グラン・クリュ」に近いものもあるので、購入の際は注意が必要です。
ロワールの自然派ソーヴィニヨン・ブラン
ソーヴィニヨン・ブラン(以下”SB”)の特徴は、何と言っても爽やかな青々しいハーブの香り。レモンやグレープフルーツなどの柑橘の香りも後押しとなって、ちょっと練習すれば誰でもわかるようになる、試験に出たら絶対外してはいけない品種です。しかしそんな常識はあくまで「一般的な」造りでの話。ロワールに多い自然派の造り手のSBはたいてい、外観がかなり濃いイエローで、ハーブの香りはまったくせず、味わいは熟したリンゴやハチミツなど。初めて飲んだ方は「今まで勉強したことは何だったんだろう!?」と思うのではないでしょうか。しかしこれが本来のSBの姿なのかもしれません。セバスチャン・リフォーは「天才か××か」と言われる、管理人が大ファンの造り手(関連記事)。シャウ・エ・プロディージュはAOCに興味がないためワインは全て「Vin de France」表示。リンゴの香りが強く、樽熟などしていないのに木や土のニュアンスがあって面白いです。
マスカットベーリーAの樽熟成
マスカットベーリーAは甲州と並ぶ日本を代表するブドウ品種で、フレッシュなチェリーやイチゴキャンディのような香りが特徴(ボジョレーに使われるガメイに似ています)。ボディは軽めで、肉じゃがや照り焼きなどの甘辛い味付けの和食によく合いますが、さほど高級ではないカジュアルでチャーミングなワイン、というのが大方の見方です。醸造はステンレスタンクの場合も樽熟成の場合もあり、正直なところ、樽を使うと果実味が樽の香りに負けてしまうものがしばしば見られます。そんな中にあって、これら二つなどは樽に負けない果実味の凝縮感があってバランスのとれた素晴らしいワイン。ブラインドでは、メルロー?ニューワールドのピノ?とみんなの頭にハテナ(?)が浮かぶこと必至。シャトー酒折は「キュヴェ・イケガワ」が断然オススメですが、2000円弱のスタンダード版も高品質で素晴らしいコスパです。NASU WINEについてはこちらの記事もご参照ください。
樽熟ミュスカデ/アリゴテ
ロワールのミュスカデ、ブルゴーニュのアリゴテは、どちらも普通は樽熟成はせず「すっきり軽やかでカジュアルな白ワイン」というのが一般的な見方です。前述のマスカットベーリーAにも通じますが、低く見られがちなブドウ品種で、その常識や偏見を覆すようなワインは面白いと思います。ここでご紹介している二つはどちらもきっとブルゴーニュの高級シャルドネだと思われるでしょう。シャトー・デュ・コワンはミュスカデの可能性に挑戦し続けている意欲的な造り手で、毎年最も出来の良い区画の最も古い樹齢のミュスカデを新樽熟成しています。他にはもし入手可能であればドメーヌ・ド・レキュのタウラスも面白いです。ブルゴーニュのアリゴテについてはご存知ルロワ様を提案します。ルロワは、このアリゴテを含め、セラーの全てのワインを新樽100%で熟成し、濾過・清澄をしません。アリゴテでこんなに高いの?!と驚くかもしれませんが、逆に言うとルロワをこの値段で購入できるのはアリゴテならではです。
インドのワイン
近年はちょっと前までは考えられなかった国でワインが造られており、その代表格がインドです。「インドのワインって大丈夫?」「暑いので果実味は濃厚だろうけど酸が足りないんじゃないの?」と思う方が多いでしょうが、実は驚くほどバランスが取れており、年を追う毎にレベルが上がっています。「スラ」のシュナンブランは2013年の世界ソムリエコンクールで出題され、決勝進出者3人はそれぞれ「甲州」「オーストラリアのシュナンブラン」「ドイツのピノブラン」と解答していました。尚、スラのシュナンブランはやや甘口なのでご注意ください。辛口がお好みの方はソーヴィニヨンブランが面白いです。「グローバー」はフランスのカリスマ醸造コンサルタント、ミシェル・ローランを迎え劇的な品質改善がされています。画像の「ラ・リゼルブ」はカベルネ・シラーズブレンドの力強いワインで、デキャンタ誌の「Best New World Red Wine」に輝きました。
安旨シャルドネ(ニューワールド)
管理人はワイン仲間とブラインドで「どっちが高いワインか?」を当てる「芸能人格付けチェック」的なワイン会をたまに開きます。ワインチョイスが難しいのですが、必ず盛り上がる面白い企画なので、チャンスがあったら是非やってみてください。シャルドネについては、ニューワールドには樽の効いたこってり濃厚な安旨シャルドネがよくありますが、酸がのっているものを見つけるのがポイント。ここに紹介した2つは、それぞれ別の機会にどちらもコントラフォンのムルソー・シャルム(24000円前後)と対決させたのですが、ディアバーグ(3200円前後・カリフォルニア)は6対0で、カテナ(2400円前後・アルゼンチン)は5対4で、コントラフォンに勝ったワインです。コントラフォンVSディアバーグのときは、管理人自身、恥ずかしながら外してしまいました(笑)
安旨濃厚熟成赤ワイン ⇒ マディラン
「どっちが高い?」シリーズ第2段。ここではボルドーの5大シャトークラスと勝負できる赤ワインを考えてみます。この手の勝負をするときはやはりビンテージを揃えるのが公平です。しかし、これは上で紹介したシャルドネにも当てはまるのですが、フランスの銘醸ワインは通常熟成させてから出荷するので、若いビンテージを探すのがなかなか難しく、逆にニューワールドは古いビンテージを探すのが難しいのが悩みどころ。よって、比較的簡単に見つかるニューワールドの安旨濃厚赤ワインは残念ながら選びにくいのです。そこで白羽の矢が立つのが、比較的古いビンテージを見つけやすい、フランス南西部の「マディラン」。主要ブドウ品種のタナは、果実味もタンニンも豊富で野性味があり、カベルネソーヴィニヨンによく似た特徴を持ちます。「レ・クーヴァン・ド・シャトー・ペイロス」は入手できるショップが少ないですが、管理人のワイン会では5対4で「ムートン」に勝ったことがあります。「シャトー・モンテュス」はトム・クルーズが自家用ジェットで買いに来ることで有名。
安旨ピノノワール(ニューワールド)
「どっちが高い?」シリーズ第3段。この手の勝負は「すごく安い」のと「すごく高い」のが勝負するから面白いのですが、そうは言ってもやはり安すぎるのは難しいというのが管理人の実感です。安価な価格帯、特に1000~3000円では100円の違いが味わいの大きな差となって表れます。その差は、1万円と2万円のワインの味わいの差よりもはるかに大きなものです。そういったこと考慮すると、やはり3000円前後のワインを選ぶのがいい勝負になる面白いラインかと思います(もちろん1000円台でそんなワインが見つかれば素晴らしいですが)。オーストラリアの「マウント・マクラウド」は管理人のワイン会でルイ・ジャドのクロ・ド・ヴージョ(17000円前後)に5対1で勝ったワイン。「クラウドライン」はブルゴーニュのドルーアン家がオレゴンで造っているワイン。どちらも酸が織りなすエレガントさがブルゴーニュを彷彿させます。
意外な地域の絶品ピノノワール
上で紹介したニューワールドのピノノワールもそうですが、ブルゴーニュの高級ワインと思いきや実はそうでなかった!という展開が、ブラインドの出題者としては快感です。上は3000円程度のニューワールドというくくりで選びましたが、もう少し幅を広げると、いろいろと面白いピノノワールが見つかるものです。マルサネ村はブルゴーニュにありながら、コート・ド・ニュイ地区の最北という土地柄もあり軽いワインが多く、軽視されがちな村です。そんなマルサネに現れたのが天才シルヴァン・パタイユ(ちなみに彼はボルドー大学を首席で卒業)。リッチな味わい、スパイス感、テロワールをしっかり表現したミネラル感等々、驚くべき高いポテンシャルで、現在大注目の若手醸造家です。「シュペートブルグンダー」とはドイツ語ではピノノワールのこと。ドイツも冷涼なため力強い赤ワインを造るのが難しい地域ですが、バーデンは比較的温暖、且つ土壌がブルゴーニュ地方に酷似しているため、ピノノワールの栽培に最適です。フーバーのワインは芳醇で濃密な果実味に新樽のバニラの風味がしっかり効いて飲み応え抜群。