アメリカのワイン専門誌「ワインスペクテーター」が、1999年1月に発表した「Wines of the century(20世紀のワイン)」をご紹介します。いずれもすごいワインばかりですが、なかには意外なチョイスもあり興味深いです。多くの人にとっては縁がないかもしれませんが、ヴィンテージを選ばなければ手が届く範囲のものもあります。自分へのご褒美ワインやプレゼントの候補にご一考してみてはいかがでしょうか?
1. シャトー・マルゴー 1900
1900年のシャトー・マルゴーはロバートパーカーが100点をつけた他、他のワイン専門誌も「神話的」などと評しました。またマルゴーの支配人ポール・ポンタリエは、2005年ヴィンテージについて「1900年以来最高の出来」と述べており、その言葉が、1900年がいかに特別なヴィンテージだったかを物語っています。ちなみにパーカーがこれを試飲したのは1996年。96年経って味が劣化するどころか100点が付くというのは恐るべきポテンシャルという他ありません。
2. シャトー・ディケム 1921
シャトー・ディケムはご存知貴腐ワインの最高峰。甘口ワインはその糖分ゆえに元来長命ではありますが、イケムは100年以上はゆうに熟成可能と言われています。イケムで「素晴らしいヴィンテージ」と謳われる年はいくつかありましたが、その中でも「1921年が最高」ということは専門諸誌の意見の一致するところのようです。
3. キンタ・ド・ノヴァル・ヴィンテージ・ポート “ナシオナル” 1931
この12本の中にあえてポートを入れてくるのは意外と言えば意外。とは言え、言われてみれば「なるほど」とは思うチョイスで、1931年のこのヴィンテージポートは「キンタ・ド・ノヴァル」の名を一躍世界に轟かせた「今世紀最高のポート」と絶賛されているワインです。この12本の中では比較的安価で購入できる部類には入りますが、「ナシオナル」は生産本数が少なくそもそも入手困難!ちなみに1997年ヴィンテージは、「ナシオナル」と並び「通常のヴィンテージポート」もパーカーポイント100点を獲得しているのでもし見つけたら狙い目。
4. ロマネ・コンティ 1937
ご存知ロマネ・コンティ。ラベルが現在のものとはずいぶん違うので「おや?」と思うかもしれませんが、それもそのはず、現在の「DRC (Domain de la Romanée-Conti)」という会社組織になったのは1942年のこと。1937年当時はジャック・シャンボンとエドモンド・ゴーダン・ド・ヴィレーヌの共同経営であり、ラベルにも二人の名前が記されています。ロマネコンティの場合、今世紀最高は1923?1937?1945?と異論もありますが、1937はブルゴーニュ全体として間違いなく歴史的グレートヴィンテージでした。
5. イングルヌック・カベルネ・ソーヴィニヨン 1941
イングルヌックは1879年、ナパヴァレーの黎明期にフィンランド人の実業家グスタフ・ニーバム氏が莫大な投資をして設立したワイナリー。1930年代には世界的に高い評価を得て、1940年台にピークを迎えますが、その後度重なるオーナーの変遷もあり、1975年に映画監督のフランシス・コッポラ氏の手に渡るときにはワイナリーはすっかり没落していました。その後コッポラ氏はワイナリーの再建に尽力し現在に至りますが、1990年、ワインスペクテーター誌がこの1941年ヴィンテージに100点を与えたことで、改めてその評価が見直されました。
6. シャトー・ムートン・ロートシルト 1945
現在はメドックの格付け1級で、5大シャトーの一つであるムートンですが、1945年当時はまだ2級(※1973年に昇格)。1945年はボルドー自体グレートヴィンテージで、1945は歴代ムートンの中でも特に優れているものの一つであると定評があります(※他は1947,1959,1982など)。しかしながら、実は1945年はアーティストによるラベルデザインが始まったムートンにとって特別な年。同じく世紀のヴィンテージと言われるオー・ブリオン1945などの1級シャトーを差し置いてこのムートン1945が選ばれたのは、若干政治的な臭いを感じます。
7. シャトー・シュヴァル・ブラン 1947
シュヴァル・ブランは、オーゾンヌと並びボルドー左岸サンテミリオン地区の頂点に立つワイン。ボルドー左岸は一般的にメルロ主体ですが、シュヴァル・ブランは、カベルネ・フランとメルロを同じくらいの割合で使用することが特徴的です。1947年ヴィンテージはボルドー右岸のグレートヴィンテージでしたが、それに加えてロバート・パーカーが著書でシュヴァル・ブラン1947を絶賛したこともあり、現在数百万円というとんでもない値段で取引されています。シュヴァル・ブランは1947,1948,1949が特に優れた三部作。
8. ビオンディ・サンティ・ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ・リゼルヴァ 1955
この12本の中で最大のサプライズがこれ。「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」はサンジョヴェーゼ種100%で造られるイタリア・トスカーナ地方の高級ワインですが、実はこのビオンディ・サンティ氏(2013年に死去)が産みの親。彼は他のワイナリーにも技術指導を惜しまず、また世界に「ブルネッロ」を広めることにも尽力した人物で、その功労賞的意味合いもあるのではないでしょうか。もちろんマニア垂涎の素晴らしいワインであることは確かで、特に評判なのは1955と1964。「リゼルヴァ」ではないスタンダード版な比較的入手容易。
9. ペンフォールズ・グランジ・ハーミテイジ 1955
オーストラリアが世界に誇るプレミアムワイン「グランジ」。初代ワインメーカーのマックス・シューバートが研究を重ね、当時の最新技術を駆使して産み出した「グランジ・ハーミテイジ」は、初ヴィンテージが1951年。この1955ヴィンテージが、1962年のワインコンテストで金メダルを獲得し世界の注目を集めたのは、陽の目を見るのが速かったと言えます。「ハーミテージ」とは「Hermitage(エルミタージュ)」の英語読みで「シラー」のこと。その後EUからのクレームによりこの名称が使えなくなったので、「ハーミテージ」ラベルは貴重!
10. ポール・ジャブレ・エネ・エルミタージュ “ラ・シャペル” 1961
1834年に設立されたローヌの名門中の名門。フラッグシップの「ラ・シャペル」は、もっと評価されてもよい、ローヌのみならずフランスを代表する素晴らしいワインの一つです。1961は特に伝説的な出来栄えとされていますが、ロバート・パーカー氏はこの「ラ・シャペル」に、1961,1978,1990と三度100点をつけたことがあります。ところが残念ながら当時の当主ジェラール・ジャブレ氏が1997年に急逝。その後やや評価を落としましたが、2006年にボルドーのCh.ラ・ラギューヌが買収し、再建が図られています。(関連記事)
11. シャトー・ペトリュス 1961
ペトリュスはボルドー右岸のポムロール地区にあり、シャトー・ル・パンと共にポムロールを代表する高級ワインとして知られています。1961年のボルドーは、春先に霜の被害がありブドウの収穫量自体は減ることになりました。しかしその後少雨で猛暑という絶好の気候となります。この二つの要因が奇跡的に重なったことにより、結果として少量で凝縮度が増した素晴らしいブドウができ、歴史に残る偉大なヴィンテージとなりました。ブドウが少量のために生産本数も少なく、そのことも希少価値を上げる一因になっています。まさに異例の年。
12. ハイツ・カベルネ・ソーヴィニヨン・ナパ・ヴァレー “マーサズ・ヴィンヤード” 1974
ハイツ・ワインセラーは1961年創業。創始者のジョー・ハイツ氏はカリフォルニアの高品質ワインの業界基準を作った人物で、ハイツのワインはいわゆるカルトワインの先駆けと言われています。この「マーサズ・ヴィンヤード」ともう一つ「ベラ・オークス・ヴィンヤード」は、特に優れた畑で、収穫量も少ないため「伝説的な畑」との評判。また畑名をワイン名にしたことでもハイツは先駆的存在です。1968,1970,1974が初期の最高傑作と呼び声が高いヴィンテージで、特に1974の飲み頃はなんと2027年までと評価されています。