「ボジョレーヌーヴォーはまずい」という声をたまに耳にします。ボジョレーヌーヴォーとは、ガメイというブドウの味わいと、そのフレッシュな果実味・軽快な飲み口を楽しむもので、一般的な赤ワインと同列に考えるべきではないと思います。とは言え、近年は最新技術による大量生産で、面白みのないヌーヴォーが増えているのも事実。しかし、中には頑固なこだわりを持って、ワイン愛好家を唸らせるボジョレーヌーヴォーを造っている生産者もいます。ここでは、その年のブドウの出来栄えに左右されず、常に高評価の、一味違う絶品ボジョレーヌーヴォーをご紹介します。「どうせヌーヴォーなんて…」と斜に構えずに、是非絶品のボジョレーヌーヴォーを体験してみてください!
メゾン・ルロワ/ボジョレー・ヴィラージュ・プリムール
名門中の名門メゾン・ルロワ。詳しくない方のために一言でご紹介すると、ルロワはDRCと双璧、ブルゴーニュのトップ2の凄い作り手です。「プリムール」という言葉は、ボルドーで使うと別の意味があるので紛らわしいのですが、ブルゴーニュでは「ヌーヴォー(新酒)」とほぼ同じ意味だと考えてください(正確には「初めての、一番目の」という意味)。ともすると「ヌーヴォー」がお祭り的で特別なワインであるという印象を与えるのに対して、「プリムール」は「熟成過程でたまたま最初に瓶詰したワイン」、言い換えると「熟成するポテンシャルもあるよ」という意味合いがあります。
そんなルロワのプリムール・ヌーヴォーですが、まぁ濃い!ちなみにルロワのワインは全てのワインが無濾過・無清澄、ブドウの選果にも妥協がないため基本濃いのですが、ヌーヴォーは特に濃く感じます。ヌーヴォーらしいブドウのフレッシュ感はありながら、まさに半端ではない力強さ。ヌーヴォーに偏見のある方のみならず、未体験の方には是非一度飲んでほしいワインです。高いと思うかもしれませんが、ルロワを4000円で飲めるなら安い!
【関連記事】ブラインドテイスティングで面白いワインのテーマ10選(ルロワのブルゴーニュ・アリゴテ)
マルセル・ラピエール/ボジョレー・ヌーヴォー”シャトー・カンボン”
マルセル・ラピエールについては「おすすめの自然派ワイン10選」でも紹介しています。自然派ワインと言えば今でこそ一般的になりましたが、ラピエールはその先駆けと言うべき人物で、本拠地はボジョレーのモルゴン。自然派を名乗る生産者は数多くいるものの実際は酸化防止剤(SO2)をしっかり使うところが多い中、ラピエールではこだわりの無添加です。では早く飲まないといけないかと言うと、ラピエールのワインはヌーヴォーに限らず数ヶ月経ってもピンピンしているのが不思議です(管理人は数ヶ月で飲んでそう感じました、きっともっと長期間熟成可能なはず)。
ヌーヴォーは2つのキュヴェ(ブランド)があり、可愛らしいイラストの「ドメーヌ・マルセル・ラピエール」はフレッシュなイチゴのようでどちらかと言えば軽め、写実的なイラストの「シャトー・カンボン」はピノノワールに近い感じでどちらかと言うとしっかりめ。お好みのほうを選ぶか、両方買って飲み比べしてみるのも楽しいですよ!
フィリップ・パカレ/ボジョレー・ヴァン・ド・プリムール
前述のマルセル・ラピエールの甥に当たるのがこのフィリップ・パカレ。「おすすめの自然派ワイン10選」には入れませんでしたが、今やブルゴーニュの自然派と言ったら真っ先に名前が挙がる存在です。もちろん文句なくおすすめできます。ちなみにパカレはDRCの醸造長になってほしいというオファーを断ったという衝撃エピソードがあります。
ヌーヴォーに限らずパカレのワインを管理人が一言で評するとしたら「出汁」。派手さはないもののじんわりと溢れる滋味深い旨味が魅力です。ヌーヴォーについては、第一印象はフレッシュでヌーヴォーらしいのですが、後からピノノワールに似た滑らかなタンニンとスパイスが追いかけてきます。ただし軽めで繊細なので、ルロワに比べるとワイン初心者には伝わりづらいかもしれません。でも是非「出汁」だと思って、その繊細な旨味を感じてほしいと思います。
ルイ・ジャド/ボジョレー・ヴィラージュ・プリムール
安定感抜群の超大手ルイ・ジャド。ルイ・ジャドのヌーヴォーのポイントの一つは”ボジョレー・ヴィラージュ“であることです。ボジョレー・ヴィラージュとは、ボジョレー地区の中でも限定された地域のぶどうで造られていて、ただの”ボジョレー”よりも厳しい規定がある、簡単に言うとワンランク上のボジョレーです。しかもルイ・ジャドが面白いのは、ヌーヴォー向けに特別なワインを作るのではなく、通常のボジョレー・ヴィラージュを作り、その中でフルーティな仕上がりのものをプリムールとして出荷しているのです。製法も一般的なボジョレー・ヌーヴォーでは、タンクの中に人工的に二酸化炭素を注入して果皮と果汁を漬け込むのですが、ルイ・ジャドでは自然に発生する二酸化炭素のみを使用して、より長期間漬け込んでいます。
味わいはいい意味であまりボジョレーらしくなく、親しみやすい果実味がある一方で、甘苦く複雑な余韻が印象的。ノンフィルター版と通常のフィルター版があり、ノンフィルター版はワイルドかと思いきや意外に上品でミネラル感が強く、フィルター版には華やかさがあります。
ジョゼフ・ドルーアン/ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーボー
ドルーアンは、前述のルイ・ジャド、後述のモメサンと並んで、ブルゴーニュで有名な大手のネゴシアン兼ドメーヌの一つ。もともとボジョレー・ヌーヴォーとはボジョレー地方の造り手が自分達で楽しむべき新酒だったのですが、初めて外部に販売を始めたのが実はこのドルーアンです。その後大手の造り手や、ボジョレー地元の造り手たちがこぞってドルーアンに倣ってボジョレー・ヌーヴォーの販売を始めました。ある意味ドルーアンが今日のボジョレー・ヌーヴォーの形を築いたと言っても過言ではありません。
ドルーアンのヌーヴォーは、溢れんばかりの赤いベリー系フルーツの果実味が特徴。ほどよい酸味を伴いバランスよく、年にもよりますが比較的しっかりめの印象があります。いい意味でジュースっぽいとも言えます。
モメサン/ボジョレー・ヌーヴォー・ヴァンダンジュ
1865年、マコンで創業した名門ネゴシアンのモメサン。モレ・サン・ドニ村の特級畑クロ・ド・タールの単独所有者ということでも有名(ソムリエ試験で頻出!)ですが、実は現在の本拠地はボジョレー。ちなみに本題からそれますが、モメサンのクロ・ド・タールは素晴らしく管理の行き届いた畑で、造られるワインも荘厳な風格を漂わせる逸品です。安くはないですが、未体験の方は是非ご賞味ください。
■ モメサン/クロ・ド・タール(楽天市場|Amazon
さて、モメサンのヌーヴォーはいくつかラインナップがありますが、「ヴァンダンジュ(収穫)」シリーズがユニーク。収穫日、総生産本数、シリアルナンバーが記載されており、これは最も熟した日を逃さずに収穫して最高の状態でワインに仕上げたというモメサンの自信の表れです。例えば掲載している画像では収穫日は2013年10月3日。もし収穫日が何かの記念日と重なる場合はプレゼントにしても面白いと思います。香りは華やかなイチゴやバラで、味わいは果実味の凝縮感たっぷり。全体的にはフレッシュでヌーヴォーらしいのですが、ヌーヴォーによくあるキャンディやバナナの香りはないので、一味違うヌーヴォーを味わえます。
フレデリック・コサール&ケヴィン・デコンブ/ボジョレー・ヴィラージュ・プリムール
フレデリック・コサールは、ワインとは無縁の酪農業を営む家庭に生まれるも、家業を継がずに家を飛び出し、クルティエ(仲買人)やネゴシアンで修行しつつドメーヌを立ち上げたという苦労人。本拠地はサン・ロマンですが、ドメーヌ業とネゴシアン業を並行し、現在はボジョレーをはじめブルゴーニュ各地でヒットワインを製造するなかなかのやり手でです。粒単位での選果、ノンフィルター、SO2無添加、徹底した温度管理、地中カーヴの造営など、妥協を許さないワイン造りに定評があります。そんなコサールが、ボジョレー・ヌーヴォー造りのパートナーに選んだのが若手のケヴィン・デコンブ。実はケヴィンは、前述のマルセル・ラピエールの一番弟子とも言われたジョルジュ・デコンブの息子です。
香りはやや穏やかなものの、味わいはしっかり果皮から抽出させていて濃密。自然派らしいアクの強さがいい意味で控えめで、万人受けしつつ飲み応えのある仕上がりです。
ドミニク・ローラン/ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーボー”キュヴェ・スペシャル”
ドミニク・ローランは、洋菓子職人から転身したという変わり種。当初は畑を持たずネゴシアンとしてワイン造りを始めたのですが、1989年の初リリースから早速評判になり、今やブルゴーニュで5本の指に入るとまで言われるようになった天才醸造家です。ちなみに奥さんは同業者のシルヴィ・エモナン(こちらの記事参照)。ドミニク・ローランの醸造法を一言で言うと「なるべく手はかけずに、でも樽はがっつり」。この樽香の強さは賛否両論分かれますが、ワイン本体が力強いので、個人的にはこれはアリだと思います。
ただし樽をがっつり効かすのは数年熟成させてから出荷する普通のワインの話。熟成させる期間が短い(※普通は樽熟成はしない)ヌーヴォーではそんなに強い樽香はないのですが、それでもバニラのような樽香があるのがさすがドミニク・ローラン。もちろん樽香だけでなく、ヌーヴォーとは思えないほどの濃密な果実香もあり、味わいは果実味・酸味・渋みが全て高いレベルでバランスが取れています。それでいて余韻は意外に爽やか。濃さやボリューム感ではルロワに匹敵し、且つどちらかと言えばこちらの方が一般受けしそうな気がします。このクォリティで3000円を切るのもリーズナブルな印象です。
ルー・デュモン/ボジョレー・ヌーボー・ヴィエイユ・ヴィーニュ
ルー・デュモンとは、日本人醸造家の仲田晃司さんがブルゴーニュのジュブレ・シャンベルタンを本拠地として2000年に設立したワイナリー(こちらの記事でも紹介しているのでご参照ください)。数年の試験醸造を重ね、2006年に満を持して日本人初のボジョレー・ヌーヴォーをリリースしました。仲田氏のこだわりは「ヴィエイユ・ヴィーニュ(=古樹)」。ボジョレーワインのブドウ品種であるガメイ(こちらの記事参照)は、ともすれば格の低いブドウと見なされることがありますが、彼は樹齢70年以上の古樹から取れるガメイのみを使用、しかもぎりぎりまで収穫を遅らせて完熟させてから収穫することで、深みのある濃厚な味わいを実現します。しかも、前述のドミニク・ローラン同様に、ヌーヴォーでは異例の樽熟成をしており、しかも新樽を使用しています。
色合いは濃い目で、香りもレーズン、イチジク、ブルーベリージャムのように濃く華やか。ボディはヌーヴォーらしいミディアムですが、ほどよい渋みとボリューム感のある果実味があり、飲み応え抜群です。ヌーヴォーでは珍しい高級感のある重厚な造りのボトルで、ギフトにしても喜ばれそうです。
ジュンコ・アライ/ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーヴォー”ル・ポン・デュ・ディアーブル”
新井順子さんはロワール地方で人気ワイナリー「ボワ・ルカ(2002年設立)」を経営している自然派の醸造家(こちらの記事でも紹介しているのでご参照ください)。ブルゴーニュのボジョレーは自身のテリトリーからかなり離れるのですが、ボジョレーの自然派マルセル・ジョベールから、樹齢60年の無農薬栽培という極上の畑を使うことを許され、ヌーヴォー造りに着手。ロワールとボジョレーの往復というハンデを乗り越え、2009年からリリースを始めました。
ワイン名の「ル・ポン・デュ・ディアーブル(le pont du diable)」は、その畑の名前で「小悪魔の橋」という意味。ワインの味わいは、彼女自身が凝縮感のあるヌーヴォーを目指していることもあり”基本”濃い系です。生き生きとしたピュアな果実味が前面に出ていて丸みがありますが、意外としっかりとした渋みと酸味が裏で骨格を支えます。”基本”と書いたのには理由があって、ワインは天候に恵まれなかった年は実は多くの場合「補糖」して造られます。これは甘くするためではなく、アルコール分とそれに由来するボリューム感を足すため。ところが彼女は絶対に補糖をしないというポリシーがあるため、その年のブドウの出来を素直に反映し、軽い味わいになることもあります。管理人はその姿勢に賛成。それが本来のあるべきワインの姿ではないでしょうか。