自然派ワイン(ビオワイン)とは、無農薬・有機栽培で育てられた自然な葡萄のみを使用して造られたワインのことで、1990年代初頭にフランスで広まりました。ビオディナミ、ビオロジック、リュット・リゾネ(※減農薬)などいくつかに分類されます。熱烈なファンがいる一方で、味わい的には多かれ少なかれ独特のクセがあるので好みは分かれますが、それもワインの一形態。果実の味わいとテロワールをよりピュアに表現した自然派ワインを、是非造り手の思想込みで楽しんでみてください。優れた造り手が多くいるので非常に迷いましたが、ここでは管理人のマイブームを中心に、おすすめの自然派ワインをご紹介します。
フランス・ボジョレー/マルセル・ラピエール
マルセル・ラピエールは現在のように自然派が注目される以前から優れた自然派ワインを造っていた、まさに自然派の元祖といってよい人物。フィリップ・パカレをはじめ世界各地の多くの自然派の造り手が彼の影響を受けています。残念ながら2010年に60歳の若さで他界しましたが、夫人と息子がワイン造りを受け継いでいます。画像の「レザン・ゴーロワ」はユニークなイラストが印象的ですが、これは世界的に有名なイラストレーターのモーリス・シネが描いたもの。まさに絞りたてのぶどうジュースに果実味が生き生きとした彼のワインの味わいをうまく表現していると思います。他には「モルゴン」(※アイキャッチ画像)も絶品です。
フランス・ボジョレー/フィリップ・ジャンボン
フィリップ・ジャンボンは、生まれ育ったボジョレーでワイン造りをしてみたいという漠然とした夢を持ちつつも、ワイン造りをする者が身の回りにいなかったこともあり、ソムリエを志します。スイスの一流レストランに勤め、五大シャトーのような偉大なワインこそが最高のワインであると認識していたある日、味わった自然派ワインの美味しさに衝撃を受けたことがきっかけで「やはり自分はワインを造ってみたい」という思いが強くなり、自然派ワインの生産者に転身しました。彼はどんなに樽がたまっても、自分が本当に納得するまで瓶詰め・出荷をせず、ひたすら待ちます。画像の「レ・グラン・ブリュイエール”99 mois”」は、なんと収穫から瓶詰めまで99ヶ月を要したという力作(※ほぼ入手不可能)。彼のこの醸造スタイルはなかなかワインを売ることができないという難点があるため、これをカバーするために若手醸造家とのコラボで、豚のラベルが可愛い「ユンヌ・トランシュ」を販売しており、こちらは比較的入手容易です。(関連記事)
フランス・ロワール/ラ・リュノッテ
ラ・リュノッテのオーナー醸造家、クリストフ・フーシェは元々は機械工学の教師をしていたという変わり種。義理の父のブドウ畑を手伝ううちにワイン造りに興味が芽生え、アンボワーズで醸造学を学び、本格的にワイン造りを始めました。彼はすぐにビオロジック農法に転換するのですが、彼はAOC(原産地呼称)の規定が相当量の農薬の使用を許すことを知り愕然とします。そこで彼はAOCに反発する意味で、彼のワインの多くが規定上「AOCトゥーレーヌ」を名乗ることが許されるにも関わらず、ラベルに「Vin de France(フランスのワイン)」と名乗っています。こだわりのビオ農法についても認証に興味がないので申請はせず。まさに名より実を取る孤高の造り手です。ごく少量しか生産しない上に人気があるため極めて入手困難!
フランス・ロワール/ジュリアン・クルトワ
ジュリアン・クルトワは、ロワールの自然派を代表する生産者の一人であるクロード・クルトワのもとで生まれました。彼がワイン造りを志すのは自然の流れ、彼は21歳にして早くも自身のワインをリリースします。その後父のドメーヌは弟に譲り、実家から数百メートル離れたところにある畑「ル・クロ・ド・ラ・ブリュイエール」を購入し自身のドメーヌを設立します。彼の栽培のこだわりはテロワールを表現すること。彼は「畑のためなら何でもできる」と語ります。醸造の特徴としては、野生酵母を使用、ポンプを使用せずに重力を利用して果汁を地下のタンクに移動させるグラヴィティフロー、白ワインは果皮ごとプレスの樽発酵、SO2不使用、ノンフィルターなどが挙げられます。造られるワインはやや濁りがあり、SO2不使用に由来するのか、やや酸化熟成のニュアンスを感じるものが多く、非常に複雑な香り。正直言うと好みが分かれるスタイルですが、これこそが自然な味わいなのでしょう。ちなみにラベルのデザインは奥さんのハイディさん(マオリ族出身)によるもの。
フランス・ロワール/セバスチャン・リフォー
セバスチャン・リフォーは1981年ロワールのサンセール生まれ。ワイン造りをしていた父(※無農薬ではない)の影響でワイン造りを志し、アンボワーズとブルゴーニュで醸造学を学びます。彼が面白いのは、その後ロンドンに行きワインショップに勤めたということです。その目的はワイン市場を学ぶため。彼はそこで自然派ワインに目覚めます。そしてさらにパリのワインショップに勤めた後、サンセールに戻りワイン造りを始めました。当初は父の手伝い程度でしたが、徐々に自分のワインを造り始め、畑全体も無農薬に切り替えて行きます。彼の栽培・醸造はのモットーは「自然の声を聞く」ということで、あらゆることが従来のセオリーから外れる、はっきり言って天才です。一例として、ギリギリまで収穫を遅らせ貴腐菌付きの過熟状態になってからブドウを収穫する一方、未熟ブドウもいっしょくたに醸造します。ソムリエ試験に出るソーヴィニヨンブランとは似ても似つかぬサンセール、是非味わってみてください。(関連記事)
フランス・アルザス/ドメーヌ・ポール・ブランク
ポール・ブランク家の歴史は16世紀に遡り、19世紀にワイン造りを始めたという大変な名門です。特に評判のよかった「シュロスベルク」が1975年にアルザス・グラン・クリュの第1号を獲得。現在は36haの畑を所有しますが、その中で計5つの畑がグラン・クリュに認定されています。現在の当主フィリップ・ブランク(画像)は、1988年にイギリスのインポーターであるサイモン・ロフタス氏(2006年までイギリスのビールメーカーAdnamsの代表でもあった)の助言を受け、自然栽培への転換を決意。また2001年にはスクリューキャップを採用。甥である醸造責任者フレデリック・ブランクの下、伝統にあぐらをかくことなく、常にワインの品質改善に努めています。チャンスがあったら是非シュロスベルクのリースリングを是非味わってみてください。完熟した豊かな果実味とシャープな酸、力強いミネラルがバランスを取り、長い余韻の続く逸品です。
フランス・オーヴェルニュ/ドメーヌ・ラ・ボエム
オーヴェルニュ地方は、ロワール、ローヌ、ブルゴーニュなどに接しほぼフランスの中央にあります。ワインに詳しい人でもオーヴェルニュ地方にワインのAOCがあることを知っている人は少ないのではないでしょうか(AOCサン・プルサンとAOCコート・ドーベルニュ)。近年、ピエール・ボジェをはじめ自然派で優れた造り手が出てきたことで評価が高まっています。そんなオーベルニュで管理人の注目はドメーヌ・ラ・ボエム。オーナー醸造家のパトリック・ブージュは、IBMのエンジニアで、前述のボジョレーのマルセル・ラピエールに影響を受け自然派に目覚めます。しばらくは会社員の傍ら、ピエール・ボジェの指導を受けながら友人のワイナリーでひっそりとワイン造りをしており、自分が納得するワインができるようになった2004年、満を持して自身のドメーヌを設立(※今でも契約社員としてエンジニアは継続)。彼はSO2使用の是非について試行錯誤を重ね、使用しないことを決断。火山灰質土壌の樹齢100年以上のブドウから造られるワインは、果実味が生き生きとしてミネラル感たっぷり。ペティアン(弱発泡)全般が得意ですが、ガメイのスティルワイン「ルル」(画像)も素晴らしいです。
オーストリア/セップ・ムスター
「ワイングート・ムスター(※ドメーヌ名)」は家族経営の小さなドメーヌですが、1727年創業の老舗。スロヴェニアと国境を接するオーストリア南部のスティリアに位置します。寒暖の差が大きく、急斜面の畑という環境は、ブドウの生育にとっては絶好ですが、全て手作業ゆえ、急斜面の作業はかなり大変です。現当主のムスターは、2003年にビオディナミに転換し認証を受けました。しかしワインにはついてはオーストリアの格付けに興味がなく「ラントヴァイン(地酒)」を名乗っています。その理由は彼曰く「格付けによってワインの味は変わらない。”ラントヴァイン”と名乗っておけば事務的な面倒はないし、それによってワインが売れないということもない」とのこと。画像でご紹介している、黄色と緑のツートンカラーが目印の「Opok(オーポック)」は、石灰・粘土質のこの土地の独特な土壌の名前。華やかで多彩なアロマを持つワインが生まれ、ピュアな果実味とすみ渡る酸、豊かなミネラルが特徴。値段も安い!
イタリア・シチリア/ラモレスカ
シチリア生まれのラモレスカのオーナー醸造家フィリッポ・リッツォは、ベルギーに移住し、1990年代初めに小さなイタリアンレストランを開店。本格的な料理と彼のセレクトするイタリアワインでレストランは大人気でした。彼はフランス以外ではあまり知られていなかった自然派ワインに当時から注目しており、友人の醸造家フランクと意気投合。フランクに自分の望む自然派ワインの醸造を委託し、自分のレストランで供していました。しかし友人フランクがフィリッポのワイン造りにまで手が回らなくなり、自分でワイン造りすることを決断します。13年続けたベルギーのレストランを売却してシチリアに戻り、2006年に「ラモレスカ」を設立。彼は毎日ほとんどの時間を畑で過ごし、手間を惜しまず自然栽培に取り組んでいます。是非飲んでほしいのは白ワイン。ヴェルメンティーノとルーサンヌのブレンドで、果皮から抽出した琥珀色が美しく、凝縮されたトロピカルフルーツのような果実香が華やか。コクがあり飲み応え抜群!
オーストラリア・ビクトリア州/ビトウィーン・ファイヴ・ベルズ
「ビトウィーン・ファイヴ・ベルズ」は、デヴィッド、レイ、ジョシュの3人が2009年共同で始めたワイナリー(現在もう一名アレックスが手伝い中)。なんと全員が他に仕事を持っており、提唱者のデヴィッドはワイン販売、レイは他ワイナリー(Lethbridge)のオーナー兼栽培・醸造責任者、ジョシュがソムリエ、といった具合です。コンセプトは「野生的でリッチなフレーバーがあり、でもがぶ飲みできるワイン」「余計なことはしない」。造られるワインは「勝手にできあがるワイン」との異名を持ちます。また赤・白・ロゼ全てにおいてブレンドが独特で、例えばシラーズ主体の赤ワインの場合、その他にネロダヴォラ、ネッビオーロ、ピノムニエ、リースリング、シャルドネをブレンドするという常識外れぶり!ブレンド比率も毎年異なり、またその年の個性を表現することを重視するため、味わいが毎年かなり異なります。その違いを楽しむのもこのワインの醍醐味。