ブルゴーニュはワイン選びの難しい地域です。まず重要なのは「畑」ですが、ブルゴーニュでは畑が非常に細かく分割されており、同じ畑でもその区画によって品質が異なります。さらには当然のことながら「造り手」によっても品質は異なるので、これらの組み合わせを覚えるのは容易ではありません。
ここでは、そんなブルゴーニュの村別に、本当におすすめできる造り手とのその代表的な畑をご紹介します(※一部の村は割愛していますがご容赦ください)。ネゴシアン系の大手(ルイ・ジャドやルイ・ラトゥール等)は外し、これまで当サイトでご紹介したことのない、なるべく「知る人ぞ知る」的なところを選びました。ブルゴーニュワイン選びの参考にしてください。
マルサネ/ドメーヌ・ブリュノ・クレール(Bruno Clair)
マルサネ村は1987年にAOC(原産地呼称)を取得した、コートドールで最も歴史の浅いAOCです。ちなみにマルサネでは20世紀初期までピノノワールが育っていませんでした。そんな背景もあるため軽視されがちな村ですが、逆に言うと発展途上で、優れたワインもコスパが高く、掘り出し物を見つける楽しみがあります。おすすめのブリュノ・クレールは今や大ドメーヌですが、コツコツと実力を培ってきた苦労人。畑名の赤はどれもテロワールを表現した滋味溢れる味わいで、ロゼも安定感抜群です。意外なところではシャルドネ(マルサネ・ブランとブルゴーニュ・ブラン)も素晴らしいので是非お試しください。
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フィサン/ドメーヌ・ピエール・ジュラン(Pierre Gelin)
フィサンはマイナーな存在ですが、ジュヴシャンと隣接していることもあり、特徴は似ていて力強く、なかなかお買い得。ジュヴシャンほど洗練されてはいないものの、土の香りやミネラルが魅力です。ピエール・ジュランはフィサンを代表する造り手で、優れた一級畑「クロ・デュ・シャピトル」(タンニン豊富で力強く長命)と「クロ・ナポレオン」(軽やかで繊細)の両方を所有しています。他に「レ・ゼルヴレ」や村名フィサンも秀逸です。
ジュヴレ・シャンベルタン/ドメーヌ・アラン・ビュルゲ(Alain Burguet)
「ジュヴレ・シャンベルタン」は前述のフィサンとは逆に過大評価されがちで、広い村なので品質にバラつきもあり注意が必要です。優れたスーパースター的生産者は多いですが、ここであえてご紹介したいのがアラン・ビュルゲ。特級・一級の畑を長い間所有していなかったため知名度は一段劣りますが、村名ジュヴレ・シャンベルタンに関してはおそらく最高の造り手ではないでしょうか。古くから有機栽培を取り入れており、2004年にはついに特級畑「クロ・ド・ベーズ」をリリース。洗練されながらも風格のある素晴らしい味わいです。
モレ・サン・ドニ/ドメーヌ・ベルナール・セルヴォー(Bernard Serveau)
モレ・サン・ドニは、村全体のワインの平均水準がヴォルネイと並んで高くハズレが少ない地域です。ここではあえてデュジャック(関連記事)を外して、「セルヴォー」をおすすめします。スーパースター級の実力にも関わらず、樽が控えめで繊細な造りがロバート・パーカーの好みでないせいか、意外なほどに値段が安い!一見軽いようでいて、熟成するととてつもないポテンシャルを発揮します。フラッグシップの「レ・ソルベ」は入手困難ですが、見つけたら即買いの逸品。セルヴォーはシャンボール・ミュジニーでも活躍しており安定の高品質です。
シャンボール・ミュジニ/ドメーヌ・ロベール・グロフィエ(Robert Groffier)
シャンボール・ミュジニの特徴を一言で表現するとすれば「優雅」。これは決して軽いという意味ではなく、透明感と品格のある味わいで、優れたワインはいずれもしっかりとした骨格と果実味を感じることができます。おすすめの「ロベール・グロフィエ」は果実味と樽の風味がうまく溶け合う、力強くも繊細なスタイルが持ち味。「レ・ザムルーズ」の最大の所有者でもあり、おすすめの畑ベスト3は「レ・ザムルース」、「ボンヌ・マール」、「レ・サンティエ」です。ただし、ビンテージによってはややムラもあります。
ヴージョ/ドメーヌ・ルネ・アンジェル(Rene Engel)
ヴージョ村の代名詞的存在が特級畑の「クロ・ド・ヴージョ」。しかしこれはコート・ド・ニュイ地区で最大の特級畑で、しかも造り手ごとの所有区画が小さいため当たり外れが非常に大きく、”超”要注意の畑です。斜面上段が最上級で、斜面を下るに従って品質が落ちるということを覚えておくとよいでしょう。おすすめのルネ・アンジェルの本拠地はヴォーヌ・ロマネですが、彼こそがクロ・ド・ヴージョの最高の造り手です。所有区画は斜面最上部のすぐ下という絶好の位置どりで、ブドウは1922年の植樹で樹齢も申し分無し。派手さはないですが濃密で奥深い味わいです。
ヴォーヌ・ロマネ/ドメーヌ・ミシェル・グロ(Michel Gros)
ヴォーヌ・ロマネは、スパイシーさとスミレの香りが特徴として挙げられますが、それは概して一級畑以上で、優れた造り手のものに限ります。村名ヴォーヌ・ロマネは、ブルゴーニュの村名ワインの中で最も当たり外れが大きいので注意してください。おすすめの「ドメーヌ・ミシェル・グロ」は、ヴォーヌ・ロマネを代表するグロ一族のドメーヌの一つで、旧名は父の名でもある「ドメーヌ・ジャン・グロ」(もちろんこちらの名前もおすすめ)。グロ一族が造る村名ヴォーヌ・ロマネはまさに模範的な存在で、自信を持っておすすめできます。特級畑はどれも言うまでもなく素晴らしいですが、一級畑の中では、単独所有の「クロ・デ・レア」が特に秀逸です。
ニュイ・サン・ジョルジュ/ドメーヌ・ダニエル・リオン(Daniel Rion)
ニュイ・サン・ジョルジュは、全体的にはタンニンが強く濃厚で頑丈、村名でも若いうちは固いものが多く、熟成に向いています。一方で、他の村に比べるとネゴシアンが優勢で、意識の低い造り手もおり、水っぽいワインもたまに見られるのが残念です。そんな中、おすすめのダニエル・リオンは、後を継いだ三人の息子たちが品質を劇的に向上させた新進気鋭のドメーヌです。2000年に長男のパトリスが独立しましたが、鮮やかで濃厚な果実味とシルキーなタンニンが奏でるメリハリの効いた味わいは健在。特に「レ・オー・プリュリェ」と「クロ・デ・アルジリエール」は必飲!
アロス・コルトン/ドメーヌ・トロ・ボー(Tollot Beaut)
アロス・コルトンの畑は、村の北側にある「コルトンの丘」をぐるっとと囲む斜面に広がっています。東南の斜面が赤の特級畑「コルトン」で、南西の斜面が白の特級畑「コルトン・シャルマーニュ」。丘の中でも場所によってさまざまな土壌があり、特にテロワールを楽しめる村です。おすすめの「トロ・ボー」はショレイ・レ・ボーヌ村が本拠地ですが、コルトン(赤)の名手の一人。樽が効いた造りですが、コルトンとは絶妙に調和します。おすすめの畑は「ブレサンド」と「ル・コルトン」(ただしブドウが軽い年はイマイチ)。赤ほどではありませんが、白のコルトン・シャルルマーニュも優れており、あたかも石のようなミネラルが魅力です。
ペルナン・ヴェルジュレス/ドメーヌ・ラペ(Rapet)
ペルナン・ヴェルジュレスの最高峰は「コルトンの丘」にある白の特級畑「シャルルマーニュ」ですが、実は生産量は1:5で赤の方が多いということをご存知でしょうか?これは、土壌の大部分が鉄分を含む粘土質で、シャルドネよりもピノノワールの栽培に向いているためです。というわけで、赤の「コルトン」はややマニアックな存在ではありますが、熟成で花開く武骨な力強さは魅力があります。おすすめのドメーヌ・ラペはこの村最高のドメーヌの一つ。どのワインも長命ですが、特に素晴らしいのが赤の「イル・デ・ヴェルジュレス」で、樹齢の古さに由来する深みを感じます。「レ・ヴェルジュレス」もおすすめ。
サヴィニ・レ・ボーヌ/ドメーヌ・モーリス・エカール(Maurice Ecard)
サヴィニ・レ・ボーヌは面白い村で、ペルナン側は果実味はやや軽いもののミネラルが力強く、ボーヌ側は果実味濃厚で土の風味があり、異なる魅力があります。日照条件もさまざまで、一級畑の「セルパンティエール」や「ラヴィエール」は、条件の悪い北東向きなのになぜか素晴らしいのも不思議です。おすすめのモーリス・エカールは、サヴィニの模範的ワインを造るドメーヌ。テロワールをそのまま表現する癖のない造りで、繊細ですが力強さを感じます。「セルパンティエール」が最高で、「ナルバントン」や「レ・クルー」も見事。意外なところでは、白の村名サヴィニ・レ・ボーヌ(ピノ・ブラン)が旨い!
※他のおすすめ生産者:ドメーヌ・シモン・ビーズ【関連記事】
ボーヌ/ドメーヌ・ジャック・ジェルマン(Jacques Germain)各種
ボーヌはいろいろな意味で難しい村です。ワインの特徴としては、果実味が生き生きとしたふくよかな味わいと言えますが、全体的にはあまりテロワールを表現しません。また、昔は悪徳な生産者が多かったことと、一級畑が異常に多く玉石混交であることは覚えておいたほうがよいでしょう。そんな中、おすすめのジャック・ジェルマンは、畑の違いを鮮やかに表現する、シンプルながらも繊細な造りで特筆できます。「トゥロン」「ヴィーニュ・フランシュ」「サン・ヴィーニュ」が特に素晴らしく、村名ボーヌも洗練された味わいです。
ポマール/ミシェル・ゴヌー(Michel Gaunoux)
ポマールを一言で表現するなら「ブルゴーニュで最もジビエに合うワイン」。色が濃く、香り・味わい全ての要素が強くこってり濃厚で、野性味が溢れます。当然熟成にも向き、優れたものは極めて長命です。また「ボルドーに似ている」という見方もあり、ブラインドで面白いかもしれません。ポマールは、造り手のレベルも意識も高い、ブルゴーニュ屈指の村ですが、その中でも管理人が特におすすめするのはミシェル・ゴヌー。これぞ古き良きポマールという力強い味わいで、威厳を感じさせます。一級畑「グラン・ゼプノ」の最大区画所有者で、当然ながら素晴らしい味わいです。
ヴォルネイ/マルキ・ダンジェルヴィル(Marquis d’Angerville)
ヴォルネイは、ブルゴーニュの中で最も平均点が高い村です。これは、村自体が狭い中で造り手のレベルが高いことと、日照と土壌が全般に優れていることによります。迷ったらヴォルネイを買っておけば、外れは非常に少ないとも言えるでしょう。そんなヴォルネイに特級畑がないのは不思議ですが、一説には、あまりに全ての畑のレベルが高いからとも言われています。おすすめの造り手を一つ選ぶとしたら、非常に迷いますがダンジェルヴィルを挙げたいと思います。繊細で芳しく気品に溢れ、樽は控えめ。それでいて長命な骨格も備えています。ベストの畑は「クロ・デ・デュク」で、次いで「フレミエ」と「シャンパン」。複数の一級畑ブレンドの「ヴォルネイ一級」も素晴らしいです。
モンテリ/シャトー・ド・モンテリ(Chateau de Monthelie)
モンテリは目立たない存在ですが、あえて特徴を挙げるとすれば、力強さはあるが垢抜けない、ということでしょうか。ヴォルネイに接する「レ・シャン・フュヨ」と「フュ・ラ・ヴェル」が最上級で、次いで「クロ・デ・シエヌ」が優れた畑です。規定では白も認められていますが生産量は非常に少なく、基本は赤です。村で最も名高い「シャトー・ド・モンテリ」は、ビオディナミ且つ長期樽熟成という造りで、素晴らしく肉厚で濃密。樽に由来するチョコレートの風味も綺麗に溶け込み、熟成でさらに真価を発揮します。
ムルソー/ドメーヌ・J・F コシュ・デュリ(Coche Dury)
ムルソーの特徴はハチミツを思わせる果実味のぶ厚さ。シナモンなどのスパイス感やミネラルも豊富で、樽に由来するコーヒーやバターの風味と渾然となり、まさに至極の味わいを醸し出します。若いうちから比較的柔らかく親しみやすいですが、熟成するとまた新たな魅力をみせてくれる、常に飲む者を魅了して止まないワインです。ムルソーと言えばまず名前が挙がるコント・ラフォン(楽天市場|Amazon)をあえて外し、おすすめしたいのはコシュ・デュリ(と言ってもこちらもスーパースターですが…)。遅摘みのコント・ラフォンとは対照的な早摘みが特徴で、これによってしっかり酸を乗せています。ムルソーにしては荘厳さがあるので、最低5年、できれば10年は寝かせたものを味わうのがベスト。「ペリエール」や「シャルム」の他、白の一級畑はどれも絶品。マニアックですが赤のムルソーも素晴らしいので是非お試しください。
ピュリニー・モンラッシェ/ポール・ペルノ(Paul Pernot)
ピュリニー・モンラッシュの素晴らしさは、メリハリのある果実味と引き締まった鋭い酸味。喩えるなら、ムルソーが適度な脂肪が乗って筋骨隆々のプロレスラー体型だとしたらと、より体脂肪の少ないボディビルダー的体型と言えるでしょうか。超有名なルフレーヴ(楽天市場|Amazon)はあえて外し、ここでははポール・ペルノをおすすめします。ブドウの多くをドルーアンに売ってしまうこともあり、日本での知名度は他のスーパースターに比べるとやや劣るかもしれませんが、地元ではその実力を知らぬものはいません。一級畑では「フォラティエール」が最高傑作ですが、特急畑の「ビアンヴィニュ・バタール・モンラッシェ」に隣接する「ピュセル」も負けず劣らず秀逸です。
シャサーニュ・モンラッシェ/ドメーヌ・ラモネ(Ramonet)
シャサーニュ・モンラッシェが白ワインの銘醸地であることは疑う余地がありませんが、隣接するピュリニーとあえて比較すると、良く言えば柔らかい、悪く言うとメリハリに欠ける、と言えるでしょうか。しかしその代わりに、実は赤ワインの生産量が白より多く、コスパの高いものが多いので狙い目です。おすすめのドメーヌ・ラモネはシャサーニュの巨匠。果実味が濃厚で、それでいて奥深くしなやか。特級や一級が素晴らしいのは言うまでもありませんが、村名でも他の造り手の一級畑に匹敵します。白は「リュショット」「モルジョ」「カイユレ」、赤は「クロ・ド・ラ・ブドリオット」が特におすすめです。
オセイ・デュレス/ミシェル・プリュニエ(Michel Prunier)
オセイ・デュレスは、他の村と比べ品質的に特に秀でたところはありませんが、コスパが高いことでは特筆できます。全体的にはスマートでやや固さがありますが、熟成させるとなかなか楽しめます。第一人者はミシェル・プリュニエ。フラッグシップは樹齢の古い赤の一級畑「クロ・デュ・ヴァル」で、濃厚で奥深く素晴らしい味わいです。白は一級畑はありませんが、村名でもこの村にしては珍しくふくよかで力強く飲み応え抜群。日本であまり流通していないのが残念です。
サン・ロマン/ドメーヌ・アラン・グラ(Alain Gras)
サン・ロマンはマイナーな存在ですが、高い標高と石灰質の土壌にあるため、酸がしっかりと乗りミネラル豊富で、白はあたかもシャブリを彷彿させる引き締まった味わいが魅力です。どちらかと言うと白の方がおすすめですが、暑い年は赤も果実味にボリュームが出てなかなかのものです。おすすめのアラン・グラは白も赤も優れたものを造りますが、とりわけ野暮ったくなりがちな赤を洗練されたしなやかな味わいに仕上げる腕は見事です。
サン・トーバン/ルー・ペール・エ・フィス(Roux Pere et Fils)
サン・トーバンもサン・ロマンと同様に標高が高く、悪く言うと軽い造りになりがちです。その割になぜか一級畑が多いので、過大評価に注意してください。全体的には強いミネラル感が特徴ですが、ピュリニー・モンラッシェに接する一級畑「レ・ミュルジュ・デ・ダン・ド・シアン(Les Murgers des Dents de Chien)」などはふくよかな果実味も伴い優れています。おすすめのルー・ペール・エ・フィスは、フランス各地に畑を持ちます、本拠地はここサン・トーバン。白も赤もレベルが高いですが、特におすすめは白の「ラ・シャトニエール」で、濃厚且つメリハリがあります。
サントネ/ドメーヌ・ジョゼフ・ベラン(Joseph Belland)
サントネは決して人気がある村ではありませんが、実はこれがなかなか侮れません。特に赤は掘り出し物が多く、タンニン豊富で野性味溢れる、素朴で力強いワインを生み出します。土の香りが強いのが好みが分かれるかもしれませんが、それはそれでまた魅力です。おすすめのジョゼフ・ベランは、どちらかと言うとシャサーニュ・モンラッシェで有名な感がありますが、本拠地はここサントネ。「ボールガール」や「レ・グラヴィエール」などが代表作で、果実味が生き生きとしたコクのあるワインを造ります。息子のロジェ・ベランは独立していますが提携関係にあり、こちらもおすすめです。